正倉院~時を超える想い

先日、東京国立博物館ミュージアムシアターで

「正倉院~時を超える想い」

を観てきた。

正倉院宝物や正倉院の建物本体を、超高画質で撮影した映像作品だ。
精密に撮影された正倉院宝物を、いろいろな角度から見ることができて、実物を見るのとはまた違う、新たな感動があった。

特に、正倉院の建物の外観や内部を詳細に撮影した部分は、本当に建物の中に入ったかのようだった。

残念ながら12月22日で公開終了。
もっとたくさんの人に見てもらいたかったなぁ。

 

で、サブタイトルにもなっている

「時を超える想い」

ってのは何かというと、予想通り

聖武天皇に対する光明皇后の想い(愛)

ってことだった。

 

正倉院に入れる品物のリスト「国家珍宝帳」に残された、光明皇后の、

「彼の遺した物を目にすると、悲しくて悲しくてくずおれそうになってしまう」

という悲痛な嘆き。それこそが聖武天皇の遺品を正倉院に献納した理由とされているのだが、それが「時を超える想い」ということらしい。

 

でも。

ちょっと待てよ?

と、ひねくれ者のワタクシは思ってしまうわけよ。

 

正倉院に納められた宝物を記した「国家珍宝帳」は、650点に及ぶ献納宝物を大きさや重さの順に並べて記載した、大変に綿密なものである。

そして、それらの聖武遺品が東大寺へ献納されたのは、聖武の四十九日忌のことだったという。

つまり、49日で綿密なリストを作り上げたことになる。死んだ直後に準備にかからないと、間に合わないレベルだ。
「悲しくて悲しくて仕方がない」から東大寺に献納しよう、とかいう悠長な話ではないのだ。

 

さらに、献納品には、聖武が愛用していた厨子(キャビネット)、椅子などに加えて、御床、つまりベッドまで含まれている。

愛しい人が横たわっていたベッドを、そんなに素早く手放すか?
しばらくの間は自分の手元に置いておきたいと思うのが、人の情ってものじゃないのか?

これではまるで、「夫の使ってたものは全部まとめてトランクルームに放り込んじゃいましょ」という風にしか見えない。
とても「悲しくて悲しくてくずおれてしまいそう」な妻のすることではない。(と私は思う)

 

私がそう考えるのには、もうひとつ理由がある。

聖武天皇は、道祖王(ふなどおう)を皇太子とするよう遺言して死んだ。
だが、道祖王は言いがかりをつけられて、立太子から1年もたたないうちに廃太子とされてしまう。そのとき光明皇后がそれに反対した形跡はない。

「悲しくて悲しくてくずおれそう」なほどに聖武を愛していたならば、彼の遺言を守ることに躍起となっていいはずだ。

それなのに。

ちなみに、道祖王はのちに橘奈良麻呂の乱に関わっていたとされ、拷問された末に獄死している。聖武が皇太子にと遺言した人物とは思えない、悲しい末路だ。

 

 

「国家珍宝帳」に戻ろう。

その文末に、意気揚々とサインしているのは藤原仲麻呂だ。

 

藤原仲麻呂。不比等の孫で、光明皇后にとっては甥にあたる。

彼には、聖武天皇の第二皇子、当時17歳だった安積親王を殺害したとの噂がつきまとう。

殺されたとされる安積親王の母は、もちろん光明皇后ではない。
だが安積親王は、聖武の唯一の皇子で、当時最も有力な皇位継承候補とされていた。

光明皇后が聖武との間に生んだ基王(某王とも)は、わずか一歳で夭折している。

藤原の娘が生んだ子ではない安積親王を、仲麻呂個人の意思で葬ったか。それとも背後にそれを指示した人物がいたのか。

すべては闇の中である。

 

けれども、光明皇后の、誰よりも男らしい「藤三娘」のサイン。
聖武天皇の綴る、繊細な字体とはあまりに対照的だ。(ちなみに奈良の国立博物館の入り口に掲げられた「奈良国立博物館」の銅板の文字は、聖武天皇の書いた文字を組み合わせたものらしい。活字のような、かっちりとした几帳面な字だ)

光明皇后の、太く堂々とした、男より男らしい字体。
この女はとても「悲しくて悲しくてくずおれる」ようなタイプではない。

 

古代史
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梅前佐紀子の古代史日記

コメント

  1. ももそ より:

    正倉院御物と聖武天皇夫婦の話、面白いです。私も一度だけの展示で一部を見ただけですけど、とりあえず倉庫にぶっ込んだだけのように感じます。夫の代わりにやることが山積して悲しんでる暇もなかったかもしれないし、位を継いだ娘のことも何かと心配だし。確かに文字を見たらオトコマエな光明皇后なんじゃないかなと。
    中国みたいに皇位簒奪で女帝誕生してたらどうなってたか。

    今年も楽しくおつきあいさせていただきありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。
    それと、大晦日の興福寺に行ってきます!

    • 梅前 佐紀子 より:

      ももそさん

      お返事遅くなりました。(スパムメールを削除するのに追われておりました・汗)
      今年もよろしくお願いします。
      大みそか興福寺、羨ましい!
      奈良を満喫したご様子、インスタで拝見しました(*^-^*)

      光明皇后、強い女ですよね。
      繊細な夫の背中を「なぁにぐだぐだ言ってんのよっ」と叩きまくっていたイメージです。