「飛鳥夕映え」

先日の両槻会定例会の際、常連のSさんが宝塚のDVDを貸してくれました。

宝塚月組公演「飛鳥夕映え」(2004年7月)

噂に違わぬ面白さだった。

加えて、当然のことながら宝塚だけあって絢爛豪華な美しさ。

まさに夢の世界でございました。

DVDを貸してくださったSさん、ありがとう!


お話の内容としては、乙巳の変が中心で、そこに至る人物模様が描かれていくわけなんだけど、まず

鞍作(蘇我入鹿)
軽皇子
蘇我石川麻呂
古人皇子
山背皇子
中臣鎌足

が、学堂に通っているというところからお話が始まる。

そこで教えているのが僧旻
唐で得た知識を、皇族・豪族の子弟に教えているという設定で、このあたりは鎌足と入鹿が旻の教えを受けていたという「藤氏家伝」から採用したものと思われます。
劇作家の方もよくお勉強しましたね、ぱちぱちぱち。という感じ。(なんだその上から目線)

で、そういった面々が、倭国の未来について熱く想いを馳せている、と。

うんうん、なかなかよい。

このクラスメートたちは十人十色で、山背皇子なんかは、父(聖徳太子)の威光をかさにきる「やな奴」ということになっている。
あげく、皇極帝が即位したときに「私が帝の位に就くはずだったのに、キィッ」と反乱を起こし、滅ぼされてしまう。
ありゃりゃ、と思うけど、主役は入鹿、そのあたりに構ってはいられない。

で、先日の小芝居で鎌足役を演じて下さったR氏のご懸念のとおり、

鎌足は悪役

でした。
それも、ほとんど一人で全部の咎を引き受ける超悪役。
中大兄皇子も登場するけど、ほとんどチョイ役扱い。
それも鎌足にそそのかされて剣を取る、という設定でした。
ま、入鹿を主役にするとなると、そうせざるを得ないわな。

鎌足は大豪族の嫡子である鞍作(入鹿)に激しい妬心を抱いている。
いつか彼にとって代わろうと、ふつふつと心を煮えたぎらせているのだ。

きゃいきゃい。コワイコワイ。

でも、鎌足は藤原氏の祖とあって、もとから「大豪族」だったと思っている人も多いけれど、当時は新興氏族の一員でしかなく、それも書紀編纂時に手心を加えてその記述なので、もうほとんど無名だったというのは確実なんですな。
このあたりも、「よくお勉強してますね」という感じ。(だからアンタ何様なんだって)


入鹿の恋の相手として設定されているのは、

阿倍倉梯麻呂の娘、瑪瑙(めのう)。

軽皇子の妃である小足媛の妹、ということになっている。

もちろん、架空の人物ですな。


阿倍倉梯麻呂の娘かぁ。
へぇ~。
蘇我と阿倍ねぇ。


などと思うけれど、ま、ありえない話ではない。
馬子の奥さんが物部守屋の妹だったくらいだし。

で、その瑪瑙のお姉さんで、軽皇子の妃となった小足媛が、密かに心を寄せているのが蘇我石川麻呂。


ほほう、と目をみはる梅前。

石川麻呂と小足媛

その組み合わせは思いつかなかった。

私が以前書いた小説では、小足媛は、鎌足の「永遠の恋人」でした。
いや、根拠のないことではないぞ?
「日本書紀」皇極3年(644)に、軽皇子が「寵妃である阿倍氏を使って、別殿を浄め払い、新しい褥を高く敷いて、万事こまごまと世話をさせた」とあるのだ。
軽皇子の妃である小足媛は阿倍倉梯麻呂の娘だから、「寵妃阿倍氏」とは小足媛と考えてほぼ間違いない。
「新しい褥を敷いてこまごまと世話をさせた」とくれば、これはもう(以下自粛)

ま、でも宝塚では、小足媛は石川麻呂とラブなのであった。
で、それを察知した入鹿は、石川麻呂の身を案じて(なんせ軽皇子は皇極帝の弟)、唐に渡れと提案する。
だけど石川麻呂は愛しい人と離れたくない、そうこうするうちに鎌足(悪役)に二人の逢瀬を目撃され、

「皆に知られたくなかったら私に協力してください」

てな流れになる。
つまり、小足媛が原因で、石川麻呂は同族である入鹿を裏切る決意をするわけだ。

いやはや、小足媛。
やるなぁ。
私の小説でもなかなかの重要な役どころだったけど、ここでもほとんど乙巳の変の影の主役。
おとなしそうな顔してなかなかのタマじゃん。
などと下品な感想をぶちかます梅前。

でもさ、軽皇子や中大兄皇子に嫁がせるくらいの年齢の娘がいたことから逆算すると、石川麻呂は、小足媛や瑪瑙のパパである安倍倉梯麻呂と同世代だったと推察されるけど……。
ま、いっか。



一方、鞍作(入鹿)はといえば、皇極帝に言い寄られたりなんかして、それを知った瑪瑙は

鞍作さまに限って……

などと言いつつ苦悩する。
(さすがタカラちゃん!期待に違わぬ役どころ)

入鹿はそんな瑪瑙をやさしくなだめ、正式な妻として甘橿丘に迎えよう、と言う。

ああ、鞍作さま

と涙にむせぶ瑪瑙。

ところが入鹿は鎌足の謀略にはまり、さらには部下(東漢)の裏切りもあって、板蓋宮で悲劇の最期を遂げるのであった……(涙)




いやいや、なかなか面白かったです。

何より、皆さん素晴らしく美しい。
衣装も絢爛豪華だし。
ところどころツッコミどころはあったけど、演者の力量の前に、細かいことはすべて吹っ飛びました。

特に、鞍作の断末魔の叫びは、涙なくしては観られなかった。
おお、Sさんのアドリブはこういうことだったのか!と激しく納得。

鞍作を失ったあとの瑪瑙の嘆きも胸に迫りました。
ホントに泣いてはったし。瑪瑙はん。

ううう、いいもの見せていただきました。
ありがとうっ、Sさん!



でも、何もかも鎌足のせいにするってその設定はちょい無理があったかな。
大体、鎌足は三韓進調の儀式の手はずをすべて整える役割を負っていて、それをいいことに軽皇子を伊勢への使いに追いやり……、って、儀式、仕切ってんじゃん。
権力、あるじゃん。

大豪族の蘇我にとって代わってやる

って、儀式仕切るくらいの力があるなら、テロに及ばなくてもよかったような気もするけど。


あと、細かいところだけど、偽の儀式だと悟った瑪瑙が、

板蓋宮に参ります。駒を拝借!

という場面。
いや、甘橿丘と板蓋宮なら、わざわざ馬に乗らんでも、歩いても10分くらいだろ。



とかなんとかあれこれ思うところはあったけど、大変楽しめた

「飛鳥夕映え」

だったのでした。


月組の皆さんの熱演に

ぽわわ~~ん

となった梅前の前で、始まったのが後半のショー。

タカラヅカ絢爛Ⅱ。

そこでは、先ほどまで国家の理想を語っていた鞍作(入鹿)さまも、陰謀をめぐらしていた鎌足も、入鹿に言い寄っていた皇極帝も、清楚な瑪瑙も、禁断の恋に身を焦がした小足媛も、みんな揃ってラテンのリズムに乗せて踊りまくる。

ああ、この混沌、このカオスこそ、タカラヅカ。


久々に楽しかったわぁ。


折も折、今週は娘と一緒に東京の宝塚劇場で宙組公演を観劇予定。

またまた楽しんできま~す!

(2018年12月4日)

 

コメント

  1. 鈴木祐子(10期) より:

    同じ宝塚で5月に鎌足を主役とした舞台があります。
    ご興味がありましたら、東京でご覧になっていただければ

    『鎌足−夢のまほろば、大和し美(うるわ)し−

    https://kageki.hankyu.co.jp/sp/revue/2019/kamatari/index.html

    • 梅前 佐紀子 より:

      鈴木さん コメントありがとうございます。
      今度は鎌足が主役なんですね!
      「飛鳥夕映え」ではさんざんな悪役でしたけど(笑)
      いろいろな角度から歴史を見るのは楽しいです♪
      観に行くにはまずチケット争奪戦に打ち勝たないと!