猫にもわかる日本神話~後編

 「猫にもわかる日本神話」、後編でございます。
 まずは前回のおさらいから。前回取り上げた日本神話にどのようなものがあったのか、もう一度確認しておきましょう。

その1「稲羽の素兎」
 稲羽の浜でオオクニヌシノミコトが傷ついたウサギを助ける話。心優しいオオクニヌシは、先に求婚していた兄たちをさしおいて、美しいヤガミヒメと結婚することができました。

その2「八俣(やまた)のオロチ」
 スサノオがオロチを退治する話。オロチの尾から剣を取り出したスサノオは、オロチから救ったクシナダヒメを妻にします。

その3「海幸彦・山幸彦」
 兄の釣針を失くしてしまった山幸彦が、それを探しに行った海神の宮で海神の娘トヨタマヒメと結婚し、海神の力を得て兄を謝らせる話。

その4「天の岩戸」
 弟の乱暴に耐えかねたアマテラスが岩戸にこもってしまう話。楽しそうな宴会の様子をうかがい見ようと少しだけ岩戸を開けたアマテラスを、力自慢の神様が引っ張り出して、地上に光が戻ります。

その5「黄泉の国」
 死んだ妻に会いに黄泉の国へ行ったイザナギが、腐って蛆がたかった妻の姿に驚いて、命からがら逃げだす話。

その6「国生み」
 イザナギとイザナミが8つの島々や神々を生む話。

その7「コノハナサクヤヒメ」
 美しい妹だけを妻にして醜い姉を返したニニギが、醜い姉のほうも妻にしていたら永遠の命が与えられたのに、と言われる話。

その8「国譲り」
 オオクニヌシが国を譲ることを承諾したいきさつ。
 国譲りに反対したオオクニヌシの子は諏訪湖に封じ込められてしまい、オオクニヌシは自分のために出雲に高い神殿を建てるよう言い残し国譲りを承諾します。


 と、まあ、以上にあげたようないくつかのお話が「日本神話」の代表的なものとされているのですが、これらが神話全体のどこにどのように位置しているのかを探っていこうというのが今回の狙いでございます。
 調べてみると、これらのお話はそれぞれが日本神話の根幹をなす結構重要な場面を切り取ったものなのですが、昔ばなしの本などではそれぞれが独立したお話のように描かれていることがほとんどで、前後のつながりがはっきりしません。それぞれのお話の登場人物たちがどのような関係でつながっているのかをはっきりさせることで、全体像が見えてくると思うのです。全体の流れをつかんでおけば、細かい枝葉の部分に入っていくのもいくらか楽になるのではないでしょうか。
 おおまかな流れをざっくりと追っていきますので、細かい部分には立ち入りません。おおざっぱすぎるだろ、とお怒りになる方もおられるかもしれません。どうかお許しくださいませ。

 また、日本書紀と古事記では、内容が微妙に異なっています。ここでは一応、古事記に準じて話を進めていこうと思います。私は日本書紀の神代紀から入りましたが、総じて神話の部分は古事記のほうが詳しく、物語性にも富んでいて、オリジナルに近いと言われているので、そちらを採用することにしました。



 前置きはこれくらいにして、さっそく始めることにいたしましょう。
まずは、出だしの部分から。

 最初に、1柱の神が生まれます。続いて4柱の神。この5神を天つ神(あまつかみ)の中でも特別な存在として

「別天つ神」(ことあまつかみ)

と言うそうです。
 神々の名前はここではあげません。この名前にはどんな意味があるのか、何をあらわしているのか、など追及していくのも面白いのですが、そんなことをしていたら時間がいくらあっても足りません。そこでここはとりあえず、

えらい神様が5人いた

と片づけて、前に進みます。これが梅前流。(すみません、おおざっぱで。詳しく知りたい方は古事記や日本書紀の専門書をお読みください)


 5人のえらい神様の次に2柱の神が生まれ、続いて5組の夫婦神が生まれます。これを「神代7代」と言うそうです。(神セブン!)
 5組目に生まれたカップルが

「イザナギ・イザナミ」

なのですね。そう、先にあげたエピソード「6」で国生みをするご夫婦です。
 この夫婦が、国生みを終えたあと、海や山の神、風の神、火の神などいろいろな神を生むのですが、火の神を生んだ時、イザナミは火傷を負って死んでしまいます。(神様でも死ぬんですね、ってな突っ込みは不要らしいです、はい。)
 その亡きイザナミを追ってイザナキが黄泉の国へ行く話が、エピソード「5」。
 国生みまでしたご夫婦なのに、最後は結構壮絶な喧嘩別れですよね。罵詈雑言の上離婚した、って感じでしょうか。


 黄泉の国から逃げてきたイザナキは、
「うわ~、ヤなもん見ちゃった、お清めしなきゃ」
と禊(みそぎ)をします。その時洗った目や鼻から生まれたのが

天照大神(アマテラス)
月読命(ツクヨミ)
須佐之男命(スサノオ)


の3柱の神々です。
 わが国の最高神とされるアマテラスは、イザナキの左目から生まれたんですね。夫婦から生まれたのではなく、禊の儀式から生まれたという設定に、何か考えさせられるものがあります。

 さて、その3人はそれぞれ、

アマテラス → 高天原(たかまがはら)
ツクヨミ  → 夜の世界
スサノオ  → 海原国

を統治することになるんですが、スサノオがお姉さんであるアマテラスに会いに行ったところ、足音が大きかったので攻めてきたと思われてしまいます。そこでスサノオは、潔白を証明するために「誓約」(うけい)をすることにします。

 アマテラスがスサノオの剣を噛み砕き、その息から3人の女神を生み出します。続いてスサノオがアマテラスの勾玉を噛み砕いて5人の男神を生み出したので、スサノオの潔白が明らかになります。
 ……ここで「潔白」を判定するルール、ちょっとよくわからない。古事記と日本書紀で明らかな相違があるのです。書紀は「生まれたのが男だから自分は潔白」、古事記は「自分の剣から女が生まれたから自分は潔白」としています。一体どういうルールなんじゃい、とツッコミたくなりますが、そのへんにこだわっていると前に進めないので、またまたスルーいたします。書紀は海外向け(唐向け)に作った書物なので、もしかしたら例の「女帝不可」と何か関わりがあるのかもしれません。
 まあ、いずれにせよ、無実だったという判定が下されて、スサノオは高天原滞在を許されます。

 ここでアマテラスは、「自分の勾玉から生まれた子は私の子だ」と宣言します。実際に勾玉を噛み砕いて生んだのはスサノオなんですが、アマテラスは「私の勾玉から生まれたから私の子である」と主張するわけです。
 ここでなぜアマテラスがことさらに親権を主張するかといいますと、そこで生まれた一人が「天忍穂耳命」(アメノオシホミミノミコト)で、彼こそが天皇家の祖先となる人物だからです。
 まあ、それはもうちょっと先の話。

 高天原滞在を許されたスサノオは、お姉ちゃんに甘えたくなったのか、もうやりたい放題でアマテラスを困らせます。スサノオの乱暴狼藉にカッとなったアマテラス、ついに岩屋にこもってしまいます。
 これがエピソード「4」、天の岩戸なのですね。
 乱暴な弟とはスサノオ君のことだった、と。

 それはともかく、岩戸から復活したアマテラス、キャラが進化したらしく最強になっており、スサノオを高天原から追放してしまいます。

 行き場を失くしたスサノオは出雲へとやってきます。その川沿いで流れてきた箸を見つけて上流に向かう、ってのがエピソード「2」、八俣のオロチ退治なんですね。
 つまり、姉を嘆かせ岩戸に追いやった困った弟と、オロチを退治し姫君を救い出す勇敢な若者は同一人物であるわけです。不良息子が改心し、功成り名を遂げた、って感じでしょうか。

 オロチから救った姫君と結婚したスサノオは、出雲で幸せに暮らします。彼らの5代のちの子、あるいは彼らの子とされているのがオオナムジ、すなわちのちのオオクニヌシ(大国主命)です。

 オオナムジにはたくさんの兄がいまして、兄たちは末っ子のオオナムジのことを召使いのようにこき使っては馬鹿にしています。彼らは噂の美女、ヤガミヒメのところに求婚しにいく途中、稲羽の浜で怪我をしたウサギを見つけます。それがかの有名な「稲羽の素兎」、すなわちエピソード「1」でございます。

 ウサギの予言通り、ヤガミヒメはオオナムジを選びます。しかしそれによって兄たちの憎悪はオオナムジに向けられ、彼らはオオナムジを焼けた大石の下敷きにしたり、大木に挟んだりと散々な目に遭わせます。兄たちの執拗な意地悪に、オオナムジはスサノオの支配する国へ向かいますが、スサノオもまた、ムカデがうようよする洞窟で眠るよう命じたり、矢を取って来いと命じてそのあたりに火を放ったりと、これでもかとオオナムジに試練を与えます。どこに行ってもどこに逃げても厳しい試練が待ち受けているオオナムジなのでした。

 ところがこのオオナムジ、ヤガミヒメを落としただけあってかなりなイケメンだったらしく、スサノオの娘スセリヒメの助けを借りて窮地を脱し、彼女と手に手を取って駆け落ちしてしまいます。スサノオは仕方なく「スセリヒメを正妻にしろ。あと、お前に『オオクニヌシ』、つまりこの地上で一番偉い、って名前やるわ」と言って二人を送り出します。

 スサノオのお墨付きを得たオオナムジ改めオオクニヌシ、それからというもの全国を渡り歩き、各地の女性たちを次々と妻にしていきます。面白くないのは正妻になったスセリヒメ。彼女の嫉妬はすさまじく、兄たちの憎悪を受けてまで妻にしたはずのヤガミヒメは、スセリヒメを恐れて実家に帰ってしまいます。
 まあ、オオクニヌシの婚姻譚は、婚姻関係を結ぶことによって各地を平定していった王の物語が集約されているものなのでしょう。それにしても、ウサギを助けた心優しい若者が、全国各地に女を作る脂ぎったオヤジに変貌しようとは。ヤガミヒメでなくとも実家に帰りたくなるってもんです。

 そうやって領土を拡大していったオオクニヌシですが、高天原のアマテラスから、「そこはアタシの子が治めるべき土地だと思うのよ? あんたさっさと出て行ってよ」と言われてしまいます。その時アマテラスが遣わしたのがアメノオシホミミノミコト、つまりスサノオがアマテラスの勾玉を噛み砕いて生み出した子なのです。オオクニヌシは自分の父(5代前という説も)でもあり正妻の父でもあるはずのスサノオが生んだ子、まあ言うなれば異母兄弟に近いような存在のアメノオシホミミノミコトから国を譲れと要求されるわけで、ちょっと理不尽な感じです。当然ながら揉めまして、まあ結構なすったもんだの末、オオクニヌシはついに国を譲ることを承諾します。これが生徒会長に指摘されて追加したエピソード「8」、国譲りのお話でございます。
 このあたりについては、また詳しくお話する機会もありましょう。というか、国家の根幹にかかわる問題を含んでいるので、一度きちんと見ておかねばと思っております。いずれにせよ、ここに深入りすると大変長くなるので、今回はさらっと触れるにとどめておきます。

 オオクニヌシが去った地上に、アマテラスは孫のニニギを遣わします。これがなんで「孫」なのかっていうのがまたまた問題なんですが、それも機会を改めて。

 地上に降りたニニギは、コノハナサクヤヒメという美女を見初めます。彼女の父に「姉のイワナガヒメも妻にしてくれるなら結婚オッケーですよ」と言われたけど姉があまりにブスだったので実家に帰してしまったところ、彼女の父に「てめぇこのやろ、ざけんなよ」と言われたというのが、エピソード「7」なのですね。

 ニニギと一夜をともにしたコノハナサクヤヒメは懐妊します。しかしニニギは「それ、ホントに俺の子なの?」と疑います。(サイテーな男ですな) するとコノハナサクヤヒメは、「あなたの子、つまり神の子なら、どんなことがあろうと無事に生まれるはずでしょ? だったらこうしてやるぅ」と産屋に火をつけ、その中で出産します。はたして、燃えさかる火の中で3人の子が無事まれ、神の子であることが証明されます。
 ……って、強気すぎるだろ、コノハナサクヤヒメ。疑われてカッとしたのはわかるけど危険すぎる。よい子の皆さんはまねしないようにね。

 そんな危険をおかしてコノハナサクヤヒメが生んだ3人の子のうち、長男は海で魚を獲り、三男は山で猟をして暮らしておりました。ある日、三男は長男に無理を言い、釣針を借りて釣りをしましたが、それを失くしてしまいます。……と、これこそが、エピソード「3」、海幸彦・山幸彦の物語なのです。
 つまり、彼らはニニギの子、つまりアマテラスの曾孫だったというわけですね。あたしゃ今までずっと、素朴な漁師と猟師の兄弟の物語だとばっかり思ってましたよ。おみそれしました。なんか、葵の印籠を突き付けられた気分っす。
 ま、それはともかく、釣針を探しに海神の宮に行った山幸彦は、海神の娘・トヨタマヒメと結婚し、子供が生まれることになります。出産の際、「見ちゃダメよ」と言われていたのに山幸彦がのぞいてみると、巨大なワニの姿になったトヨタマヒメが苦しんでおりました。見られたことを恥じたトヨタマヒメは、生まれた子を残して海に帰ってしまいます。
 生まれた子は成長し、トヨタマヒメの妹と結ばれて4人の子をもうけます。その末っ子のワカヌケ、彼こそが、またの名をカムヤマトイワレヒコ、つまり我が国の初代天皇である神武天皇なのでした。


 ……ふ~っ。どうよ。以上が「古事記・上つ巻」および「日本書紀・神代」。日本の歴史はこれ以降、「人代」つまり人間の時代に入っていくというわけなのです。
 以上、「猫にもわかる日本神話」でございました。


 とはいえ、最初にお断りした通り、これは本当に大ざっぱな、大筋だけを追ったものに過ぎません。本当はもっとごちゃごちゃと大勢の人が出てきて、名前なんかも複雑なんですが、今回は思い切って省略しました。でも、始めに大まかな流れをつかんでおけば、あとから細かいところに入っていくのが楽になるのではないでしょうか。これを手がかりにもっと深い日本神話の世界に入っていってくれたら嬉しいです。





 りんちゃん、聞いてた?

20150810Y12 (2)
……あ、寝てるの。 そうですか……。

 

(2015年9月17日)

古代史
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