猫にもわかる日本神話~前編

Amazonで「日本書紀」を検索していたら、「著者・舎人親王」となっていて思わず笑ってしまいました。確かに書いたのは(編纂したのは)舎人親王なんだけど、太宰治とか又吉直樹とかと並べられると結構おかしい。
 ま、その舎人親王があらわしたという日本書紀ですが、「書いてあることは嘘ばっかり」とか、「何かを隠すため陰謀の限りをつくしている」とかあれこれ言う人もいますが、私のスタンスとしては「時の権力者の思惑が投影されている部分はあるにせよ、真摯な姿勢で歴史を記述しようとしたもの」ととらえておりまして、著者の舎人親王は「小説家」ではなく「歴史家」あるいは「学者」だったと思っております。
 従いまして、「そこに書いてあることは基本的には真実」という姿勢で日本書紀を拝読してきた私ですが、読み込んだのは崇神天皇以降で、それより前の欠史9代と言われる9代までの天皇紀、さらにその前の神代、すなわち神話の段は、ほとんどと言っていいほど読んでいないことに気がつきました。

 これはまずいんじゃね? と思うわけですよ。

 これほどまでに日本書紀を愛読している私が、さわりの部分とはいえ、内容もなにもうろ覚えってのはいかがなものか。いや、それ以前に、一人の日本人として、日本神話を知っておくことは必要不可欠なことじゃないのかっ!
 ……などと変なギアが入った梅前、読みましたよ。読みました、「神代紀」を。

 いやはや、苦しかった。家系図書いてもよくわからない。何がどうやってどうなってるのか、ここに出てくるあなたは誰っ? などともがき苦しみつつ読むこと数日。「よくわかる日本神話」「地図と写真から見える!古事記・日本書紀」などという本をかたっぱしから参考書にしつつ、ついに読了。
 読み終わって思うことは、日本神話は(いや、外国の神話もそうかもしれないけどよく知らない)「無駄にこみいってる」「枝葉の部分が多い」ってことですね。今まで知っていた「日本神話」、「イナバのしろうさぎ」とか「アマテラスの岩戸隠れ」とかの「パーツ」が、全体のどこに位置するのかを理解して読まないと、袋小路にはまって出られなくなってしまう。
 そこで、この数日間の努力を無駄にしないよう、日本神話をわかりやすくまとめてみたいと思います。題して

「猫にもわかる日本神話」。

 頭のいい人は日本書紀でも古事記でも一度読めばすらすら頭に入ると思うんですが、私みたいな記憶力ゼロ、理解力ゼロの人間にも、そしてわが家のりんちゃんにもスムーズに理解できるように、かみくだいてやさしく説明できればと思っております。
 長くなるので前編後編に分けます。今回は肥大した枝葉の部分、つまりよく知られている日本神話のエピソードをいくつかあげ、後編でそれが全体の流れのどこにどのように収まるのかをみていきたいと思います。(うまくいくか自信ないけど)
 まずは日本神話のエピソードを列挙するところから始めましょう。

「日本の神話」といって思いつくのは、「イナバのしろうさぎ」とか、「やまたのオロチ」とか、「天の岩戸」とか、そのあたりじゃないでしょうか。
「死んじゃった奥さんを黄泉の国まで迎えに行って、『振り返っちゃダメ』と言われてたのに振り返っちゃって怖い目にあう話」なんてのをあげて、「ギリシャ神話にも似たようなのがあるんだよね」なんてウンチクたれる人もよくいます。
 あと、「お兄ちゃんの釣針を失くした弟がそれを取り戻しに行く話」とか、「美人の妹のほうだけ妻にしてブスな姉を返したから寿命が短くなった話」とか、詳しい人は沢山の日本神話をあげることができるでしょう。
とりあえず代表的なものとしては、以下の物語があげられるのではないでしょうか。

その1「稲羽の素兎」
 オオクニヌシノミコトが稲羽の浜を通りかかりますと、怪我をしたウサギが泣いていました。どうしたのかと聞けば、沖の島からワニをだましてやってきたが嘘がばれて背中の毛皮をはがれた、と言うのです。
 大国主命の兄たちは「海水を浴びて乾かせば治る」と言いますが、その通りにするとヒリヒリして痛くてたまりません。かわいそうに思ったオオクニヌシが「真水で体を洗い、蒲の穂の上で横になるといいですよ」と教えてやったところ、ウサギの傷はすっかりよくなりました。感謝したウサギはオオクニヌシに「あなたは兄たちからいじめられていますけど、最後にうまくいくのはあなたですよ」と言うのでした。そしてその言葉の通り、兄たちが揃って求婚したヤガミヒメはオオクニヌシを選び、二人はめでたく結婚したのでした。
 ちなみにこの「しろうさぎ」は、白いウサギではなく、「毛皮を剥かれて素になったウサギ」のことで、「素兎」という字を使います。痛そうですね。「ワニ」も、クロコダイルではなく鮫のことらしいです。

その2「八俣(やまた)のオロチ」
 上流から箸が流れてきたので川上に人が住んでいると知ったスサノオが、川をさかのぼり訪ねてみると、美しい娘を前に泣いている夫婦がおりました。聞けば、毎年この時期になると8つの頭と尾を持つ八俣のオロチ(大蛇)がやってきて娘を食べてしまうというのです。8人いた娘たちも毎年一人ずつ食べられてしまい、残るのはこのクシナダヒメだけなのでした。
 そこでスサノオは強い酒を用意させ、8つの桶に入れてオロチを待ちました。やってきたオロチは頭を桶に突っ込んで酒を飲み、ついに酔いつぶれて眠ってしまいました。スサノオがオロチを切り刻むと、尾から見事な太刀が出てきました。オロチを倒したスサノオは、クシナダヒメを妻として幸せに暮らしました。

その3「海幸彦・山幸彦」
 兄の海幸彦は海で魚をとり、弟の山幸彦は山で猟をして暮らしておりました。ある日、山幸彦は無理を言って兄から釣針を借り、釣りをしてみましたが、魚は一匹も釣れず、おまけに兄の大事な釣針も失くしてしまいました。兄は激怒し、海に潜って探してこいと言います。
 山幸彦が困っていると、塩椎神が海神の宮に案内してくれて、山幸彦はそこで海神の娘、トヨタマヒメと結婚して幸せに暮らします。3年がたち、兄に釣針を返しに行くという山幸彦に、海神は兄を懲らしめる呪文を教えます。山幸彦は兄に釣針を返し、呪文を使って謝らせたのでした。

その4「天の岩戸」
 高天原で暮らしていたアマテラスは、弟が乱暴ばかりしているのを悲しんで、天の岩戸にこもってしまいます。太陽の神であるアマテラスが隠れてしまったから、さあ大変。世界はまっくらになり、悪いことばかり起こります。困った神様たちが相談し、天の岩戸の前で宴会をして、楽しげに踊ってみせると、アマテラスは岩戸を少しだけ開けてそれをのぞきみようとしました。すかさず力自慢の神様が岩戸に手をかけ押し開きます。アマテラスは岩戸の外に出、世界には光が戻ってきたのでした。

その5「黄泉の国」
 死んでしまった妻が忘れられないイザナギは、妻に会うため黄泉の国へと向かいます。帰ってきてほしいと必死で訴えるイザナギに、妻は黄泉の国の王と相談するから、その間自分の姿を見ないで待っていてくれるように言います。待ちくたびれたイザナギが櫛の歯に火をともして黄泉の国を見てみると、そこには蛆がたかった醜い妻の姿がありました。驚いたイザナギが逃げ出すと、妻が追いかけてきます。なんとか逃げおおせたイザナギは、妻が出てこられないように黄泉の国との間に岩を据えました。妻は岩の向こうから、「こんなひどいことをするなら私は一日千人を殺す」と言います。イザナギは「それなら私は一日千五百人を生もう」と言うのでした。

その6「国生み」
 天の神々から国生みを命じられたイザナギとイザナミは、天の御柱を立て、それを回って交接し子を生みましたがうまくいきませんでした。女性であるイザナミが先に声をかけたからいけないのだと天の神々に教えられ、今度はイザナギから声をかけ交接したところ、8つの島々からなる大八島とその他の島々を生むことができました。国生みを終えたイザナギとイザナミは、次にさまざまな神々を生んでいったのでした。

その7「コノハナサクヤヒメ」
 美しい娘を見初めたニニギは、娘の父親に許しを得ようとしますが、父親は娘の姉であるイワナガヒメも一緒にめとってくれと言います。でも姉があまりに醜かったので、ニニギは妹のコノハナサクヤヒメだけ残し、姉を親のもとへ返してしまいます。すると父親は、「イワナガヒメと結ばれればあなたの命は岩のように永遠になったでしょう。でも返してきてしまったので、あなたの子どもたちの命は限りあるものになってしまいました」と言うのでした。


……まあ、他にもいろいろご存知の方もおられるでしょうが、代表的なのはこれくらいでしょう。これらのお話を、「起こった順に並べよ」と言われてできる方、どれくらいおられますか?
「ああ、そんなの簡単じゃん、何言ってんの」とおっしゃるアナタ、次回のブログはスルーして下さって結構です。

 まだまだ他にこんな話がある!という方は、どうかお知らせくださいませ。次回、それをきっちりと組み込んでご説明申し上げましょう。(きっちりできるかどうか自信ないけど)





<追記>
記事をアップ後、さっそくれんしさんより「国譲りが入ってませんが」とのご指摘をいただきました。国譲り。そこ、大事ですよね。さすが生徒会長、鋭いご指摘。さっそく追加させていただきますので皆さまよろしく。


その8「国譲り」
 高天原を治めるアマテラスは、地上世界は自分の子が治めるべきだと思い、地上の王であるオオクニヌシに使者を派遣します。オオクニヌシの子であるコトシロヌシは国譲りに賛成しますが、タケミナカタは強硬に反対します。アマテラスが送り込んだ力自慢、タケミカヅチノオは、タケミナカタを諏訪湖に追いつめ、そこに封じ込めてしまいます。それを知ったオオクニヌシは、大空に届くほど高い神殿を建てることを条件に、国を譲ることを承諾したのでした。
 この物語に関しては、古事記と日本書紀の間に違いがみられます。古事記ではオオクニヌシは結構抵抗しますが、日本書紀では比較的穏やかに国を譲ります。タケミナカタも登場しません。お話としては古事記のほうがおもしろいので、ここでは古事記バージョンを採用しました。


 それから、「国引き」の話(島に網をかけて引っぱってきたって話)もあったなと思い調べたところ、それは「出雲風土記」にのってるお話でした。これは、島根半島が古代には半島ではなく「島」であったことを示す説話らしいですね。斐伊川から流れ出る砂で出雲水道が埋まり、陸続きになったそうです。それで「国引き」。なるほどなるほど。でもこのお話がなぜ書紀や古事記に採用されなかったんだろう、などとも考えてしまいます。舎人親王、痛恨のミスか。それともわかっててわざとやったのか。どっちよ、舎人ちゃん。

(2015年9月11日)

古代史
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